【今日のアルバム】The 1975 - 『A Brief Inquiry Into Online Relationships』(2018)
祝1周年!
- アーティスト: THE 1975,マシュー・ヒーリー,ジョージ・ダニエル,ロス・マクドナルド,アダム・ハン
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
- 発売日: 2018/11/30
- メディア: CD
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1年前の11月30日。音楽好きに激震が走った日である。
なぜかって?
それはだな、発売1ヶ月を経たずして様々な2018年の年間ベストアルバムの1位をかっさらっていったアルバム、『A Brief Inquiry Into Online Relationships』、邦題:『ネット上の人間関係に関する簡単な調査』が世に出た日だからだ。
いやー、ブログを始めた日から今日という日はこのアルバムの記事を出すと決めていたんですよね。
だけども最近、すっかりと生活が荒んでいたから普通に忘れてたわ。ツイッター見て気づいた。
だからこれ書いてるのはまだ11月30日だけどもしかすると記事が出るのは12月になってるかも。
このアルバムは発売されてから1年しか経ってないけど、自分の音楽リスナー人生にとって本当に重要なアルバムだ。
だって、俺がこのブログをしてるのだってこれがなけりゃ、というかThe 1975がこの世にいなければ絶対にやってないからな。
1年前の自分は今と比べるとそんなに音楽は好きでなかったし、聴いてたのもMuse、Franz Ferdinand、Radioheadとかの2000年代前半のアルバムばっかだった。
Mitskiとかは聴いてたけど明らかに新譜よりも旧譜の方が好きだった。
皆の推すアルバムの良さが解らなくなってきてたんだよねこの時期。
ギターの音が表舞台からいなくなってきて、コートニー・バーネットやセイント・ヴィンセントらはいたけど、なんか自分の求めてるやつじゃないんだよなあってずっと思ってた。
ShameとかIDLESも良かったけど、それだけじゃ埋められない何かがあった。
だからといってさっき挙げたMuse、FranzであったりJack Whiteの新作は別にガツンと来なかった。
それは前年のキラーズとかアーケイド・ファイアも同じ。
アークティック・モンキーズだけは別格だったけど。でもあれを求めてたわけじゃなかったんだよな。
だからずっと、2000年代の大好きなロックンロールリヴァイバルの頃の音楽とかビートルズ、オアシスとか心地よいと思うものばっか聴いてた。
でも、このアルバムが出た時のツイッターでの盛り上がりは今までのものと比べものにならなかった。
「とんでもないものが出たぞ!」とかそんなコメントでいっぱいだったし、自分のよく読んでる音楽ブロガーの人(ブロガーと括るのはとても失礼なくらいの人なんだけど)も「これはすごい!レディオヘッドのあのアルバムとこのアルバムをうんたらかんたら・・・」みたいに大絶賛してた。
正直、何でこんなに騒いでるのか解らなかったね。
The 1975のことはもちろん知ってた。NMEがやたら推してたし、彼らの一挙手一投足が記事になってた。
「OK ComputerやQueen Is Deadみたいなアルバムを作りたいんだ。」
そうインタビューに答えていた1975のボーカルのマシューのことを今でもよく覚えている。
それを読んだ時の自分が何を思ったのかは覚えてないけど、多分覚えてなかったってことは特に何も思わなかったってことだろう。
それくらい自分はThe 1975に無関心だった。
その前に出てた、2枚のアルバムは長くて途中で寝てしまった。
『She’s American』を良い曲だと思ったのは覚えてる。
一応、リードシングルは2曲聴いていた。『Give Yourself A Try』は良いと思った。
でも、『Sincerity Is Scary』。これが印象悪すぎたね。
今は好きだけど、正直この曲をロックバンドがやる意味が解らなかったね。あとその帽子なにっていう疑問。
「お前らロックバンドだろ。」っていう、今思えばなんてバカだったのかと顔を覆いたくなるほどの感想しか出てこなかった。
去年は、ロックがあまりにも不遇な年だった。
去年のイギリスのアルバムチャートで1位をとったロックアルバムが何枚か知ってる?
5枚。たった5枚。あの僕たちが憧れたロック大国のイギリスがだぜ?
その1枚が1975だけど。
ロックであるかどうかの基準は僕自身だから正確には知らないぜ、数え間違いもあるかもだし。
ああ、ロックは死に行くんだなって本気で思った。
そんな中で出た、1975の新作。
僕のロックの価値観の全てがぶっ壊れた。
全て、言い切ってもいい、全て。
ギターの音とかロックとは何かとかマシューの一見ひ弱な外見とかどうでもよかった。
ただ、そこにあったのは自分じゃ理解できないような底知れぬ何か。
歌詞の意味が正確に理解できなくとも伝わる何か。
「僕の求めてたロックって何か。これだ、これこそロックだ。」
今でも1曲目の『The 1975』を聴くと体が震える。今日は寒いだけかもしれないけど。
分析とかいらない。ロックだ。僕の探し続けてたロック。いやロックだけじゃなくて全て。それが今、目の前に、インターネットの中に、スマホの中に、小さな四角形のプラスチックケースの中に、僅か58分の15曲の中に、求めてた全てが存在してるって思った。
ロックが好きで、この時代に生きていて本当に良かったと思う。
決して、残念な時代に僕らは生まれたわけじゃないって、The 1975がいるじゃないかって。
救世主だと思った。例えればそれは80年代においてのザ・スミスかもしれないし、小説で例えればそれは敗戦直後の青年たちにおける太宰治かもしれない。
80年代と今は状況が全く違うから例えがあってるかは知らんが。
とりあえず、僕は1年前にThe 1975というバンドに圧倒的にぶちのめされた。
曲は全部は紹介し切れないけど特に自分がぶちのめされた4曲は知ってほしい。
アルバムの5曲目『Love It If We Made It』だ。
まず、そのイントロの音。そこから他のバンドとは大違いだ。
そして今まで聴いたことが無いほどのマシューの力強い歌唱。
そこに込められているのはパンクロック的怒りと現代社会への憤り。
個人的なあれだけどサビの歌詞の「何かを成し遂げるのは素晴らしい」って訳すのはなんか違和感を感じるんだ。文法とかは何も間違いが無いはずだけど。
サビで何度も繰り返される、「I'd love it if we made it」の叫びとギターの音。
「現代社会は僕らを見捨てたんだ」の刃物で突き刺されるような切れ味。
あまりにも衝撃的で、刹那的で、もう何と表現していいかわからない。
現代社会に生きてる僕はとにかく見たくないものを目に入れないようにするし、そうできてしまう。
貧困、暴力、ドラッグ、孤独、格差、政治、教育、地球環境・・・・・
知るべきものに目を背けてはいけない。知らなかったことを教えてくれ。
それをこの曲から教わった。
The 1975 - I Like America & America Likes Me (Lyric Video)
「なんだこの曲は。」
よくわからないけど引き込まれた。
「死ぬのが怖いんだ」、「俺は嘘つきか」、「信じて、声を上げて」
「子供たちはライフルなんか欲しがらない、欲しいのはシュプリームさ」
「頼むから、聞いてくれないか」、「銃なんかいらない!」
この曲の歌詞が頭にこびりついて離れない。
世界は悪いのか。嘘ついてるのはどっちだ。僕は、彼らは何を求めているんだ。
これは音楽を超えた何かだ。音楽の形をしているだけで。
僕にはそう思えてならない。
さっき貼った2曲とは対照的なアップテンポな曲。
80'sポップス感満載だ。
古臭いとも思うかもしれないが、この曲が僕のフェイヴァリットだ。
歌詞は最初はただのラブソングかと思ってたけど、そんなわけないと思って調べたらドラッグソングかもしれないって解釈もあるらしいって知った。
まあ、歌詞云々よりこの曲はそのメロディーと80’sポップスに対する肯定だ。
このご時世、ロックスター然としているのが珍しいマシューにはぴったりの曲だ。
決して、このアルバムは世界のマイナスな側面だけを強く押し出しているアルバムでは無い。
社会に対する怒り、憤りを放ちながら、自分自身の弱さをもさらけ出し、インターネットという現代社会を代表するツールを用いた喜劇だ。
The 1975 - I Always Wanna Die Sometimes (Lyrics)
アルバムラストの曲『I Always Wanna Die (Sometimes)』だ。
一瞬ぎょっとするタイトルだ。
レディオヘッドとオアシスが合わさったようという表し方があるようだけど、確かに今までのどの曲よりも言ってしまえば大味。
大味だけど、下手したら低俗な感動バラードになりかねないこのメロディーをThe 1975はこの名盤を締めるに相応しい曲に仕立ててしまう。
現代に生きる僕らのような若者はみんなこの曲のようなことを思ったことは1度はあるかもしれない。
いや、僕のような不健全なロック中毒者に比べると、世間は思ったより健康なのかもしれない。
無性に消えてしまいたいときがある、この世界から。
それはいつもそう思ってるかもしれない。いや、時々だ。
いつも死にたい、消え去りたいと願いながらそんな意識を抑え込み、ただ避難所を求めてネットをさまよい、音楽を漁る。
時々、いつも死にたいって思ってる自分に出会う。
今年の夏、サマーソニックというフェスで僕は彼らをこの目で初めて見た。
目の前の光景が信じられなかった。
伝説を見た気がした。
2003年のサマーソニックでのレディオヘッド、2004年のフジロックのホワイト・ストライプス、2013年のフジロックのナイン・インチ・ネイルズ等々。
「あれは見た人にしか分からない」
そんな伝聞を耳に、目に入れるたびにわかったふりをしていた。
これがまさにそうだ! 今、僕の目の前で繰り広げられているがそれだ!
あんなにライブで興奮したのは久しぶりだった。
僕はそもそもライブにそんなに行く方ではない。というか金が無い。こちとら仕送りが無いんですぞ、東京住みの恵まれたみなさん。
音楽といえば、自室の隅っこで聴くもの。
リアムのポーズをして、ウィーザーのメロディーで、ジョン・ライドンのようにがなりたてるふりをするんだ。
そんな不健全なことをしてたら、ライブで腕を振るとかいった健常者なら当たり前にできることが出来なくなった。
だから、ライブにはあんまり行きたくない。本当に好きなやつには行くし、フェスには行くけど。
だけど、そんな僕がジャンプまでしてしまったんだぜ。あの夜。
一生忘れないと思う。あの日の1975は誰が見たって優勝だ。
とても蒸し暑いのにジャージで現れたマシュー、なぜかライドの『Nowhere』のTシャツを着ているマシュー、大吟醸をラッパ飲みするマシュー、暑さと酔いでヤバいと思ったのかライブ後半にポカリを急いで飲みまくるマシュー、間奏で狂ったように笑いだすマシュー。
どれもこれも、最高のエンターテインメントで、刹那で、最高で、不安さえ感じるものだった。
来年の2月に出される予定の新作、『Notes On A Conditional Form』。
いまだ全貌がメンバー以外には、いや本人たちでさえもわからないという19曲入りの2枚組(かも)。
生きる希望は1975の新作とストロークスの来日&新作とオアシスの再結成
それまでは時々、いつも死にたいって思いながら生きていきます。
Notes On A Conditional Form [12 inch Analog]
- アーティスト: The 1975
- 出版社/メーカー: Polydor
- 発売日: 2020/02/21
- メディア: LP Record
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と、ここまでで終わりにしても良かったんだけど、一つだけこのアルバムについて言いたいことがある。
それは思ったより、The 1975のファンからはこの作品が支持されていないこと。
ツイッターのアンケートとかで人気投票してるの見たけどこのアルバムの得票率16%とかだ。
もちろん、海外の話。
1975は最近のロックバンドの中ではサウンドやらなんやらに理由をつけて人気があると音楽評論家達は口をそろえて言うけど、大半のファンはこのようなアルバムを求めていたかと思うと違うと思う。
実際、売り上げでもチャートでも成績は過去作よりもかなり下回っている。
YouTubeの再生回数もそうだ。
意外と、このアルバムは世間では評価されていない。音楽ファンの中では評価されてるけども。
ケンドリック・ラマーや去年のトラヴィス・スコットのように批評的受けが良いアルバムを作ったから売り上げ、人気につながるのかといったらそうではなさそう。
これが今のロックの立ち位置なのかもしれない。