スーパーボウルのU2
最近個人的に楽しみにしていることとといえば、Dr. DreやSnoop Doggらが出演する2月13日(日本時間2月14日)のスーパーボウルのハーフタイムショーなんですが、自分はたった15分にも満たない時間にアメリカという国の巨大さを見せつけてくる圧倒的なスーパーボウルのステージが大好きでよくYouTubeで見てます。
今から20年前、9.11祈念の意味も込められた2002年のハーフタイムショーでのU2のステージは今でも名演とされていますが、特にショーの終盤、「Where the Streets Have No Name」のアウトロ部分でボノがジャケットの裏側の星条旗を観客に見せるところは数十年のハーフタイムショーの歴史の中でも名シーンの一つです。
9.11の数か月後のステージでU2がブッキングされていたなんてよくそんな偶然があったもんだと思ってたんですが、実際は元々ジャネット・ジャクソンの予定だったところ、9.11の事件を受けて辞退されたそうで、ちょうどアメリカツアーでスーパーボウルでやった時と同じ演出をしていたU2に代役のオファーが回ってきてそれを快諾したそうなんですね。
この話を見て、アメリカ出身のスーパースターであるジャネットですら困難だと判断したにも関わらず、アイルランド出身のバンドが約1億3000万人の視聴者に対しアメリカ国旗を身に纏ってパフォーマンスするってよくそんなことが出来たなって思います。当時はアメリカ出身でないアーティストがスーパーボウルに出演するのも初めてなのに9.11のトリビュートにアイルランドのバンドを起用するのはどうなんだという意見があったようです。
実際、マライア・キャリーの国歌斉唱の時点で硫黄島のアメリカ国旗みたいな演出もあったり、異様な感じのUSAコールが起こってたりと外様のU2にはかなり不利な状況だったと思います。
そんな中でU2はあの見事なパフォーマンスをやり遂げたわけなんですが、ボノを筆頭にU2の政治性ってスケールがデカすぎるからか特段ファンじゃない自分とかたまに説教臭く感じたりもするんですけど、この星条旗の演出はジャケットの裏側にそっと仕込んでる感じがスーパーボウルっていうイベントの大きさと比べて質素に感じられて、アメリカの中の色んな人の気持ちに寄り添ってる感じあって好感が持てます。
このU2の映像見てると、アメリカとアイルランドのつながりということを考えてしまいます。元は隣国のイギリス人に差別され、アメリカに行ってもイギリス人に差別され...でアイルランドにルーツ持つ人って厳しい環境に置かれてたらしいですが、結局アイルランドのバンドがアメリカの窮地を救うみたいなところは素直にかっこいいなあと思います。
大和田俊之先生の『アメリカ音楽史 ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで』は「偽装」というテーマでアメリカ音楽の歴史を見ていく本ですが、そこではミンストレルショウという白人が黒人の真似をする歌劇でアイルランド系が黒人を演じることで、被差別民であったアイルランド系が白と黒という対立の下にイギリス系と同じ白人というアイデンティティーを獲得していき、アイルランド民謡がアメリカ音楽の形成に大きな影響を与えていく...という過程が書かれています。
このU2のパフォーマンスも実はアイルランド人がアメリカに偽装するという伝統を踏まえていたものと見れなくもないのかなと思ったり。
『The Joshua Tree』や『魂の叫び』でアメリカ音楽に接近していた時期もあって(流石にジミヘンの「Star Spangled Banner」とかアルバムに収録するのはどうなんだと思いますが)、U2自体にアメリカのイメージは少なからずあったと思うんですが、このハーフタイムショーで確実にアメリカ国民からU2はアメリカを背負うバンドだと認められた感がありますね。コールドプレイとかはビヨンセとブルーノ・マーズの力借りて何とか乗り切ったみたいなところありますし...。
一昨日、ビートルズのルーフトップコンサートのIMAX上映を見に行った際に『Sing 2』の予告編があって、「I Still Haven't Found What I'm Looking For」 が流れてて結構面白かった(ボノが声優やってるらしいです)のですが、ユニバーサルのアニメーション映画でアメリカ産の音楽よりもU2の方がフィーチャーされるってよく考えたらおかしいですよね笑。そういうU2の偉大さみたいなのをスーパーボウルの季節になって考えたりしました。